2007-01-17

「貧酸素」でも増殖確認
瀬戸内海のミズクラゲ 大量発生の一因?

 瀬戸内海で大量発生しているミズクラゲが、他の生物は死滅する海底の「貧酸素」という厳しい条件下でも生き続けて個体数を増やすことを、広島大大学院生物圏科学研究科の上真一教授らのグループが、実験で初めて解明した。環境悪化に伴う貧酸素水域の拡大が、漁業被害をもたらす増殖の一因である可能性を示す。6月にクラゲ大量発生問題の国際学会で発表する。

 実験は、修士課程の高尾真理子さん(23)が担当。2005年夏、呉市沖でミズクラゲを捕獲し、生体クラゲの前段階「ポリプ」を実験に使った。海底などで無性生殖で個体数を増やす性質があり、水中の酸素温度を八段階に設定、各五十固体を三週間にわたり観察した。
 
 瀬戸内海で貧酸素の状態とされる1㍑あたり2.3㍉㌘の酸素量では74%が無性生殖し、個体数は三週間で2.8倍になった。魚類など他の生物が死滅する0.5㍉㌘でも、47%が生殖して1.7倍に増え、酸素が十分にある場合の半分程度は生きる能力が残ることを突き止めた。

 瀬戸内海では、ヘドロや埋め立てを含めた人工構造物の影響などで、広島湾や周防灘の一部、大阪湾などの海底で貧酸素化が進む。一方で、この十年でミズクラゲが急速に増えているが、具体的なメカニズムはほとんど分かっていなかった。

 地球温暖化の影響で瀬戸内海は最近二十年間で年間最低水温が平均1.5度上昇している。研究グループは別の実験で水温が一度上がると、ポリプの成長速度が6.6%速くなるデータも得ている。上教授は「水温上昇に加え、海底の貧酸素化が増加に結びついているのではないか。敵がいない貧酸素水域が、増えて周辺に広がっていく『タネ場』となっている可能性もある」と指摘する。

ミズクラゲ…日本沿岸域で最もよく見られるクラゲで、「古事記」(712年)にも登場する。1960年代に東京湾での大量出現が社会問題化し、瀬戸内海では90年代に急増。上教授らの調査によると、瀬戸内海の中央部を除く全域で、定置網や刺し網などの漁業の被害が深刻となっている。

2007.1.6中国新聞記事

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